大童法慧 | 僧侶的 いま・ここ
何かを得ようとするのではなく 何かを捨ててみよう
大童法慧,曹洞宗,僧侶,祈祷,相談,生き方,悩み
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僧侶的 いま・ここ




3月 22日 比べる心

手にした物の数を競う人生。 人を二つの種類に分ける世の中。 悲しい哉、私たちには、物事に善悪や優劣の評価を自分の感覚のみで行い、それを絶対の価値観として生きている面があります。 そして、他者との比較の中で、自分を確認し、強く見せたり、賢く見せたり、威張ったり、怒鳴ったり・・・ あいつは金持ちだけど、俺の方が頭はいい。 あの人はもてるけれど、私の方が心はきれい。 そんな言い訳を作り出し、自らを慰める。 でも、比べる事により満足や喜びを得ようというのだけれども、満ち足りる事は、おそらく、ないでしょう。 自慢されると、鼻につく。 高慢な態度には、反発する。 わかっちゃいるけど、やめられない。 比べる心は、煩悩のひとつ。 1.高慢     自分の方が上だ 2.過慢     同上とほぼ同義 3.慢過慢    相手が上であっても同等だと思う 4.我慢     自分の考えは変わらないという思いあがり 5.増上慢   悟った、極意を得たという思い上がり 6.卑下慢   劣等感に落ち込む 7.邪慢     自分には徳があると思いこむ 野放図な煩悩は、やがて、悲劇を産む。 責任の裏付けのない権利。 こらえ性のない、傍若無人の態度を、力だと信じる短絡的な輩。 法に触れなければ何をしても良いという考え。 いくら、口を尖らせ、眉を吊り上げ、恫喝したとしても・・・それは、戯言にすぎない。 比べる心を手放そう。
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2月 22日 確信

あなたと出会い30数年 同い年の58歳 2月 私の癌が見つかり あなたは仕事を辞めた 感謝の思いで一杯だけど 「迷惑をかけたな」という思いも拭われない 三度の抗癌剤の治療も甲斐なく これから免疫療法 はじめはそんなに仲のいい夫婦じゃなかったと思う 喧嘩もした 別居もした あなたには 私以外の女もいたはず 子ども3人はそれぞれ自立したから、、、、安心 可愛い可愛い孫も抱けた 今 あなたは献身的に私を支えてくれている 毎朝 仏壇の前でお経を1時間も唱え 私の回復を祈る 食事を作り 病院まで車を走らせ 私を待つ 時折 部屋に籠るのは あなたの癖 6月「坐禅をしてみないか」とあなたは私に問いかけた 「しんどいから、嫌よ」と私は笑いながら言った 数日後今度は 「坐禅をしてみようよ」と誘ってきた 「うーん、それも悪くはないわね」と答えてあげた ふと襲われる 死のささやき声に胸の奥が騒ぎ立つ 暴れたい気持ちを抑え 気づかれぬように独り止まらない涙をふく 突然の事故で亡くなった方の報道を見て思うことがある もしかしたら 家の洗濯物は干したまま? 保育園の迎えは誰が行くの? 晩御飯の準備はどうするの? いつもの暮らし 決まっていた行事 楽しみにしていた旅行 悲しみを比べてはいけないけれど・・・ この病のおかげで人生のまとめができると思った 几帳面な私には必要な時間  案外素敵なプレゼント 眼を閉じると 懐かしい顔 暖かな日々 緩やかな時間 友達 恋人 先生 お父さん お母さん 7月 あなたの選んだお寺で坐禅をした 「無理に足は組まなくてもいいですよ」と小太りの老師は教えてくれた 身体を真っ直ぐにして、ひと息ひと息を丁寧にと およそ40分 病気のこと 子どもたちの顔 孫のしぐさ そんなことが心の中を駆け巡った でもふと「あなたがいない!」と思った 慌てた私は 隣に坐るあなたの顔を見た あなたがいた 私の隣で 穏やかに凛として とても綺麗なあなたの顔 この禅堂のなかで あなたと私が坐っている この世界のなかで あなたと私がひとつになってここにいる 照りつける夏の太陽 秋の心地よい涼しい風 雪の季節は穏やかに過ごしたい そして いつもの見慣れた台所 あなたと子どもたち3人とそのお嫁さんと大切な孫のあいるちゃん 留めておきたい  このままいたい 目に映るものが優しい もったいないこの時間 何もかもが愛おしい 今 素直に思えるの 生れてよかった 生きてきてよかった 本当に生れてよかった 本当に生きてきよてかった
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2月 04日 心得

先日、急用のため、新横浜から広島に向かう新幹線に飛び乗りました。 新大阪に到着した時のこと。 不意に前の座席から、金髪で鼻にピアスをした若者から、「あの~、すみません」と声をかけられました。 「何ですか」と応じると、彼はこう言ったのです。 「座席を少し倒してもいいですか」 正直な話、まさかそんな言葉を聞くとは思いませんでした。 そして、自らを省みて、飛行機でも新幹線でも座席を倒す時、その言葉をかけることを忘れておりました。 だから、彼に対して「ありがとう。どうぞ。」と答えました。 彼との出会いは、それだけです。 でも私は、「ああ、こういう所だな」「こういう命の使い方を心得ておかなければならないな」と教えられました。 そういえば、新幹線が停車するたびに、乗り換えのご案内とこんなアナウンスが流れています。 「お降りの際は、お座りになられました座席のシートをもとに戻すのに御協力ください」 停車する駅ごとに、このアナウンスが入る事を考えれば、おそらく徹底されていないのでしょう。 座席をもとに戻すどころか、前のアミには、ゴミを入れてそのままだし、読んだ新聞や雑誌は席においたまま。 わりとよく目にする光景です。 口をとがらせ、権利ばかりを要求する姿。 居酒屋では食い散らかし、ホテルのベットには濡れたバスタオル。 スーパーに行けば、買うつもりのお刺身をやめて、肉の売り場に置き残す。 心得ておきたい言葉の一つです。 「すみません、座席を後ろに倒してもいいでしょうか」
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1月 14日 生きる

親の死とは、あなたの過去を失うこと。 配偶者の死とは、 あなたの現在を失うこと。 子どもの死とは、あなたの未来を失うこと。 友人の死とは、あなたの人生の一部を失うこと。 『愛する人を亡くした時』 グロールマン 7年にわたる不妊治療 やっと授かった子宝 その子の性別を知り 二人で名…

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12月 31日 老い

「私はもう老い朽ち、齢をかさね老衰し、人生の旅路を通り過ぎ、老齢に達した。わが齢は八十となった。 譬えば古ぼけた車が革紐の助けによってやっと動いて行くように、恐らくわたしの身体も革紐の助けによってもっているのだ」   『ブッダ最後の旅』 白い頭 遠くなった耳 若くない身体 私を育ててくれた元気な頃の親の今の姿 改めて思う 自らの命を削って 我が子を育てたのだ、と 生意気な学生の頃 親を鬱陶しいと想った自分がいた 自らの人生の折り返し地点を過ぎた今 悔悟と時間の優しさを痛切に感じる 懐かしく暖かな日々 穏やかで緩やかな時 宝物のような故郷
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11月 25日 仕事?

「仕事を休みたくない。休めない。 親の葬儀であっても、それを会社に知らせたくない。 それを理由に休むことを、会社自体がよく思わないから」 最近は、死後一日のみおいての火葬が増えた。 24時間経てば、火葬ができるから。 数日おくと、お金がかかるから。 できれば、土日がありがたい。 通夜や葬儀はしなくてもいい。 でも、親戚の目があるから、通夜はしないで葬儀のみ。 できるだけお金のかからぬ方がいい。 訃報の電話を受けた時に真っ先に考えるのは自分のこと。 自分の予定、自分の都合、そして自分が一番楽な対応。 あなたの数日間を我が親との別れにも費やせない仕事って・・・何? あなたが恩情を忘れたとは、思いたくない。
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10月 28日 あなたが いなくなる

あの日 私は知りました 「あなたが、この世からいなくなる」ことを それは、あなたと話せなくなることでした それは、あなたと一緒にいれなくなることでした それは、あなたの温もりをじかに感じられなくなることで それは、あなたと共に時間を過ごせなくなることで それは、何をもってしても埋め合わすことなどできないと知りました そして、私もこの世からいなくなりたいと思いました 数年の時間を経て、改めて思う あの時、感じたことは嘘ではありません 今も、あなたの姿を探しています でも、、、あなたがこの世からいなくなっても 私は、どこででも、あなたと会えることを知りました そう、私が思えば、あなたは私のそばにいる いえ、あなたは、いつも私の中にいる
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9月 30日 現場

<出棺> 写真なんか撮るなよ…こんなところを。 優しい言葉なんかかけないでくれよ・・・いまさら。 最期だからといって、そんなに見つめないでくれ・・・恥ずかしいじゃないか。 棺の中の俺の顔を、待ち受けにするのか・・・ 花もそんなにいらないよ。だって、うっとおしいもの。 それなら、酒とおにぎりを入れてくれ。 <収骨> 「骨壺に収まりきらないので、少しお骨を砕いてもよろしいですか。 普通の人よりも、多くのお骨が残っていますから」と、お決まりの言葉。 「では、お近くにお集まりください」と声をかけ、おもむろに箸を構える職員さん。 固唾をのんで見守る一同。 できるだけ平静を装い、「こちらが、下顎です」と低い声で語る。 視線を感じながら、丁重に扱い、壺の中に収める。 「こちらが、右の耳、そして左の耳。穴があいてますよね。」 「そして、こちらが、喉仏です。坐禅をしているような様子です。 このように綺麗な形で残るのは、たいへん珍しいです。」 ・・・案の定、感嘆の声があがる。 嗚呼まるで、骨の品評会。
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9月 06日 木版

私が修行した道場では、夜の坐禅の終わりに、木版が鳴りました。 古参の僧が木版を打ちながら、「生死事大 無常迅速 各宣醒覚 慎莫放逸」と、禅堂に坐る者たちに低い声で朗々と告げます。 静寂の中、木版を叩く音が身体に染み込み、その声が身体に響き渡ります。 生死は事大にして、無常は迅速なり 各々宜しく醒覚すべし 慎んで放逸すること莫れ 一日が過ぎるのは早いから気をつけなさい、という警告ではありません。 時間が私たちの上を走り去っているのではないのです。 そう、私たち自身が過ぎ去っている。 だからこそ、この人生を放逸に過ごしてはならないのです。 あんなに暑かった夏も終わりました。 私たちの夏も過ぎ去りました。 人生を愛おしむ互いでありたいと願います。
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8月 05日 43回忌

43回忌。 白茶けた写真には、太っちょの男の子。隣には三輪車。 こちらに向かって、満面の笑み。 42年間・・・ご両親はこの笑顔に、どれほど救われただろうか。 この笑顔が、どんなに痛かっただろうか。 「和尚さんはいくつ?」 そう聞かれて「昭和44年生まれ、今年44歳です」と答えると、母親はうなずくように話を始めた。 「じゃあ、いっしょだ。うちのは、二つで亡くなったのよ。 生きていたら、和尚さんぐらいだったのね」 とてもとても可愛い、賢いお子さんだった、と。 2歳で、病で、あっという間に、と。 そして、二度と子供を授かることはなかった、と。 帰り際、母親が笑顔で言った。 「ね、お願い。握手して」
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