大童法慧 | よくある話
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10月 08日 よくある話

かつて、私はとても裕福な家に育ちました。
今思えば、とても幸せなことでした。
年頃に、両親が選んだお相手も、申し分のない方でした。
しかし私には、好きな人がおりました。
そう、私の家で働いていていた彼です。
彼との間に、子どもを身籠ってしまいました。
若気の至りというのでしょう。
許されぬ恋に燃え、駆け落ちをした私たちは、遠い町で暮らしを始めました。
出産が間近になった頃、ふと思い出しました。
子どもは実家で産まなければならないという、私の国の習慣を。
「実家で子どもを産みたい」と告げる私に、夫は怖れました。
でも私は、実家へと戻る旅を始めました。
夫もしぶしぶ後を追ってきましたが、旅の途中で陣痛があり、そこで子どもを産みました。
そして、私たちは実家に帰らずに、自分たちの家に引き返す事を決めました。
数年後、また私は子どもを授かりました。
そして、家族で実家に向かうことにしました。
旅の途中、激しい嵐の日、また陣痛がはじまったのです。
私が横たわっている間に夫は、雨をしのぐ覆いにする枝を集めるために森へ行きました。
けれども、夫はそこで、毒蛇にかまれ死にました。
子どもは無事生まれました。
途方にくれた私は、赤ちゃんを抱き、もうひとりの子の手を引いて、実家を目指すことにしました。
強い雨の続くある日、洪水で水かさの増した河を渡らなければなりませんでした。
でも、私には一度にふたりの子どもを運ぶことはできませんでした。
私は上の子を河岸に残すと、まず、赤ちゃんを抱いて対岸に渡りました。
川を渡り切り、大切な赤ちゃんを地面に置いた時、大きな鷹が赤ちゃんに襲いかかってきたのです。
私は、大声を出して追い払いました。
その様子を見た対岸で待っていた上の子は、私が呼んでいると思ったのでしょう。
なんと、河に飛び込んだのです。
驚いた私も、その子を救おうと飛び込みました。
しかし、上の子は急流に流されて溺れてしまったのです。
そして、私が岸に上がった時、鷹が赤ちゃんを連れ去る姿を見ました。
私は、ただ歩きました。
夫を、かわいい子供を、赤ちゃんを思って、歩きました。
父を、母を思って歩きました。
故郷の町はずれで、ある男に、私の実家について尋ねました。
彼は言いました。
「その家については、聞かないでくれ。」
問い詰めた私に、男が答えました。
昨晩のひどい嵐が私の実家を壊し、その家の者たちが全て亡くなったと言うのです。
「全てを失くした」と思った時、私は気を失いました。
それ以後のことは、全く覚えておりません。
泣きながら地面をのたうち回り、人を見れば悪態をつき、絡み、暴れ・・・
ある日、町の人々が、暴れる私を押さえつけるようにお釈迦さまのところへ連れて行きました。
お釈迦さまは、私の目をしっかりと見つめ、こうおっしゃいました。
「涙・・・大海の水ほどの悲しみの涙」
首をかしげる私に、お釈迦様は示されました。
「この世は、無常であります。みんな移り変わっていく。
私たちが生きるということは、大海の水ほどの悲しみの涙を流すことでもあります。
あなたの悲しみは、あなただけのものではない。
人として生まれてきた以上、避けてとおることはできないものなのです。
だからこそ私たちは、決して無くならないもの、誰からも奪われないもの・・・
真実なるものを求めなければならない」
私は頭を剃り、お釈迦さまの弟子となりました。
今思えば・・・そう、その時には思えなかったけれど・・・
今、思えば・・・窮することは、決して悪いことでなかった。
「よくある話」だと、笑われるかもしれませんが、本当にあったのです。
私たちは、苦しく辛い状況を、早く解決したいと願うものですが・・・
苦しい気持ちこそが懺悔であり、解決であると思い定めることも必要ではないかと思います。
それは、決して独りよがりの判断ではなく、また、安易な道でもありません。
というのも、その状況が真実なるものに導いてくれることもあるからです。
だから、あなたの胸の痛みを大切にしてください。
そして、これ以上、御自身を責めないでください。


MEMO
1、パターチャーラー
2、男と女のお話     日吉ミミ


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