大童法慧 | 余命
何かを得ようとするのではなく 何かを捨ててみよう
大童法慧,曹洞宗,僧侶,祈祷,相談,生き方,悩み
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5月 18日 余命

そのご婦人が、家族4人でお寺を訪ねてきたのは、数年前の5月の事でした。
境内の掃除をしていた私に語りかけてきた言葉は、「このお寺は、曹洞宗ですよね?」でした。
「ご住職さんですか?少し、お話しを聞いていただけませんか?」
住職ではない事を伝えながら、泣き腫らしたような眼にただならぬものを感じ、師匠に取次ぎました。
彼女は、40半ばの主婦。夫と中学生の姉妹との4人暮らしの事。
穏やかな語り口でありながら、意志の強さをうかがわせる面持ちの彼女。
与えられしものを静かに赦し、じっと見守ろうとするご主人。
子供たち二人は、母の傍らから離れようとしませんでした。
「実は私、昨年の8月に、癌だと診断されました・・・余命1年だ、と。
はじめて、死ぬという事を突き付けられて・・・。
なぜ、なんで私が、という思いばかりつのりました。
ネットや本を読み漁ったり、人を訪ねていったり、とにかく、焦りました。
私には1年という時間しかないなんて・・・。
病気の事、娘の事、主人の事、人生の事、そして、私自身の事。
私は、何もわかってませんでした。
昨晩の事なんです。
いろいろと集めたお経本を眺めている時、『修証義』が目に留まりまして・・・
ああ、これだったのかと。涙が止まらなくなったんです。
身震いしながら、朝まで何度も何度も読み返しました。
気がつけば、大きな声を出して読んでました。
このお経について、もっと知りたいと思ったんです。
それで今日、家族でお参りをかねて、曹洞宗のお寺さんに伺ってみようと。」
師匠は幾度も頷きながら、黙って聴いておりました。
彼女の問いかけに応じながら、修証義を説いておりました。
師匠の傍で聞いていた私は、愧じいっておりました。
「・・・私は涙を流しながら、修証義を読んだ事があるだろうか。
私は咽びながら、修証義を押し頂いた事があるだろか・・・」と。
別れ際、笑顔で手を合わす家族に、「いつでも、どうぞ」と。
以後、再び入院するまでの2ヶ月の間、彼女は何度もお寺に訪れました。
そして、夏。
余命の宣告どおり彼女は・・・亡くなりました。
医療の発達により、今では、余命○年、余命○ケ月という言葉が市民権を得ています。
しかし、余命という言葉を待つまでもなく、私たちの死亡率は、100%です。
老若男女、ひとしく100%。
今日の命さえも、絶対の保障はありません。
後先の順番はあるけれど・・・
散る桜 残る桜も 散る桜
散る紅葉 残る紅葉も 散る紅葉
癌を宣告されなくとも、一面においては、余命であり与命であり、そして、預命であります。
余った命とするか、与えられた命と受け止めるか、預かった命と達観するか・・・
今回、舌癌という病と対峙して、私は余命を宣告されるまでには至りませんでした。
腫瘍の除去という事で、ひとまず、治療を終える事になりました。
この身体にも癌は宿り、隙あらば巣食う事を学びました。
そして、余命とは、いま・ここにしかない事も。
いや、命は、いま・ここ。
末筆ながら、様々な励ましをいただきました事、感謝申し上げます。
ありがとうございました。


MEMO
1、緩和ケア
2、
大きなことを成し遂げるために 力を与えて欲しいと神に求めたのに
謙虚を学ぶようにと 弱さを授かった
偉大なことができるように健康を求めたのに
より良きことをするようにと 病気をたまわった
幸せになろうと富を求めたのに
賢明であるようにと 貧困を授かった
世の人々の賞賛を得ようとして 成功を求めたのに
得意にならないようにと 失敗を授かった
求めたものは1つとして与えられなかったが
願いはすべて聞き届けられた
神の意にそわぬものであるにもかかわらず
心の中の言い表せない祈りは
すべて叶えられた
私は最も豊かに祝福されたのだ
一患者の詩 グリフィンの祈り アメリカ南北戦争の南軍無名兵士の作
I asked God for strength, that I might achieve.
I was made weak, that I might learn humbly to obey…
I asked for health, that I might do great things.
I was given infirmity, that I might do better things…
I asked for riches, that I might be happy.
I was given poverty, that I might be wise…
I asked for power, that I might have the praise of men.
I was given weakness, that I might feel the need of God…
I asked for all things, that I might enjoy life.
I was given life, that I might enjoy all things…
I got nothing I asked for – but everything I had hoped for;
Almost despite myself, my unspoken prayers were answered.
I am, among men, most richly blessed!
— Attributed to an unknown Confederate soldier
3、癌細胞の悲しみ   結果的には、癌も自ら死んでいく


15 個のコメントがあります
  • D.S.
    Posted at 23:13h, 18 5月 返信

    SECRET: 0
    PASS: ff1fc29744a0a8209b4c6c44ae84ce75
    決して変に誤解しないで下さいね。
    法慧さんは、この度とても得難い経験をなさったのだと思います。
    仏教という宗教に携わる身としては、文字ではない生老病死を学んだという事なのでしょう。
    「生也全機現、死也全機現」
    私は、この『正法眼蔵』の言葉をまだ文字のレベルでしか知りません。
    「知らない」ことは幸せなことなのでしょうが、深みは決してないものと感じます。
    これからも深みのある和尚としてご精進下さい。
    失礼いたしました。合掌

  • mana
    Posted at 09:12h, 19 5月 返信

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    私の知り合いのご主人も、昨年、旅立ちました。面識こそありませんが同世代、友人も私達には何も言いませんでしたが、「体調崩しご主人が入院してた」そのくらいで、退院して事を聞き「よかったね」と言っていました。
    その後、1年後「亡くなった」と訃報を聞きました。通夜と告別式は自宅近くの福島県郡山、残念ながら、聞いた時は既に終わっていたので、焼香にいけませんでした。しかし、昨年の秋、友人(川崎・遠野)や先生(中野)と、改めて焼香に行って来ました。
    私が余命1年と、今、宣告されたらどうしよう。子供の事、妻の事、気を確かにしていおけるだろうか、私が生まれて来た意味を見つける事が出来ただろうか、あの世はあるのだろうかと、いろいろ考えるだろうが、答えは出ないだろう。
    その日がいつか来るかと言う覚悟は必要なのかもしれない、家族を路頭に迷わせる不安が1番怖い、そのためにも、死を覚悟しながら自分自身の修行をしていくしかない。

  • 大閑道人
    Posted at 11:11h, 19 5月 返信

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    私の妻は、日頃から、こう、申しております。
    「ガンになったら、ガンで死ななければもったいない」
    人は、何がきっかけで死ぬのかわからない。しかし、ガンの場合は、それがあらかじめわかっているのだから、ガンで絶命する以前に交通事故などで死んでしまったら、せっかくガンになったのに、もったいない。
    ま、そういう論理なのですが、私は、この妻の言を聞いた時に、絶句してしまいました。
    「これじゃ、ガンも、ガンにさせ甲斐がないので、ガンはよってこないだろう」
    北海道の宗門のある寺族の方。
    自分がガンになったのを知って
    「ガンよ、ガンよ。私が死んだら、あなたも死ぬのよ」
    私は、この寺族のお言葉が一番身にしみました。なぜならば、友人のご母堂だったからです。友人の人となりを支えているものをお知らせいただいたように思えたからです。
    この度は
    >余命であり与命であり、そして、預命であります。
    という命がけのお言葉を賜りました。
    法慧師のご精進がまた深まるのでありましょう、うらやましいような、いたわりたくなるような、複雑な気持ちになってしまいます。
    経験は、言語化されて体験になる、と聞きました。
    普遍の生命を、ますますもって、お説きくださいますよう、待っております。
    大閑道人 九拝

  • Posted at 21:33h, 19 5月 返信

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    私たちは、生老病死の真っ只中を生きています。
    この真っ只中こそに・・・

  • Posted at 21:37h, 19 5月 返信

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    あの日、別れた親や友は何を持っていったのだろうか?
    あの日、別れた師や子は何を遺していったのだろうか?
    私たちが大切にしなければならないものを。彼らは教えてくれます。

  • Posted at 21:45h, 19 5月 返信

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    >「ガンになったら、ガンで死ななければもったいない」
    なるほど、肝っ玉母さんですね。 お変わりありませんか?
    今年度も養成所に行きます。課題は修証義です。

  • D.S.
    Posted at 23:59h, 19 5月 返信

    SECRET: 0
    PASS: ff1fc29744a0a8209b4c6c44ae84ce75
    >私たちは、生老病死の真っ只中を生きています。この真っ只中こそに・・・
    頭では理解しているつもりなのに、理解できていないところが仏教の深みなのでしょうか。
    また、それが今の今まで仏教が廃れない理由の一つだとも感じます。
    「底のないバケツに水は溜まらない」
    水が溜まらないことを願いつつ、しかし水が溜まらなければバケツの深みは分からない・・・仏教とは深いですね。
    精進、精進、勤精進。

  • のーら。
    Posted at 22:43h, 24 5月 返信

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    お体大丈夫ですか??
    そうですよね、
    私達生きてる者の死亡率、
    100パーセントなんですよね。
    そう思うと、
    毎日大事に生きなきゃ!!
    って思いました。

  • taturo
    Posted at 00:32h, 26 5月 返信

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    人間の死亡率は100%
    与えられた命
    精一杯生きなければ
    もったいないですね。

  • Posted at 10:25h, 26 5月 返信

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    丙丁童子来求火

  • Posted at 10:27h, 26 5月 返信

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    ありがとう、大丈夫です。
    人生に近道なし、ですね。

  • Posted at 10:28h, 26 5月 返信

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    お久しぶりです。
    更新の再開を楽しみにしております。
    と、いいながらも、私自身も不定期で・・・

  • 岳さん
    Posted at 21:34h, 03 6月 返信

    SECRET: 0
    PASS: efb417f3a6ce30cfd668415ba19056a4
    授かる前の弱さと、授かった跡の弱さは同じでしょうか?
    与えられる以前の病気と、与えられた病気は同じでしょうか?
    祈りが消えたとき、対立するものも消えるようです。
    この神を、”仏と神々”に言い換えると……。

  • Posted at 17:34h, 09 6月 返信

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    契機は、いつも足元にあるようです。
    いや、「いま・ここ」にしかない。

  • 風月
    Posted at 11:47h, 20 6月 返信

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    舌ガンとは、驚きましたが、なにとぞお気を付けください。
    気をつけて頂きたくて、いろいろと書いては消し、書いては消しています。やはり、お大事になさってください、としかいいようがありません。しかし、私にも、何時その時がやってくるかわかりません。お互いに而今を大事に生きましょう。
    お大事になさってください。

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