大童法慧 | 毒箭の喩
何かを得ようとするのではなく 何かを捨ててみよう
大童法慧,曹洞宗,僧侶,祈祷,相談,生き方,悩み
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5月 16日 毒箭の喩

ある日、マールンクヤプッタ尊者は静かなところで独坐していました。
その時、ふと、心に疑問が生じました。
「この世界は永遠なんだろうか、それとも、永遠でないのだろうか?
この世界は有限なんだろうか、それとも、無限なんだろうか?
霊魂と身体とは同一なんだろうか、それとも、別物なんだろうか?
如来は死後に存在するのだろうか、それとも、存在しないのか?
如来は存在しかつ非存在であるのだろうか、それとも、存在もせず非存在でもないのか?
そういえば、お釈迦さまは、この事について説かれた事がないよなぁ・・・
そうだ、お釈迦様にこれらの問いをお尋ねしよう。
そして、お釈迦様がお教えくださったならば、益々、修行に励もう。
しかし、もし、お教えくださらなければ、修行をやめて、還俗をしよう」
彼は、この疑念をお釈迦様にぶつけました。
お釈迦さまは、ひとつひとつの問いに答える事なく、こんなお話をされました。
「たとえば、ある人が毒矢で射られたとしよう。
家族や友人が医者を迎えに行き、矢を抜かせようとするでしょう。
しかし、本人が毒矢を抜くことを拒否したらどうなるだろう?
誰がこの矢を射たのか、どんな階級に属している者が射たのか、この矢の毒の種類は何か、 この矢を射た弓はどんな弓だったのか・・・
その事がわからぬうちは、この毒矢を抜いてはならないと、主張したら、この男はどうなるだろうか?
マールンクヤプッタ尊者よ、あなたはこの男をどう思うかね」
「・・・・・・・」
「あなたの問うた事は、実は、この男と同じなんだよ。
いま大事なことは、すぐに、矢を抜いて手当てをすることだ。
こんな問いにとらわれる事なく、本当の真実に目をむけなさい。
この問いは、厭離に導かず、離欲に導かず、止滅に導かず、寂静に導かず、証智に導かず、正覚に導かず、涅槃に導かない、利益をともなわないものだ。
この現実の、生があり、老いがあり、死があり、愁い、悲しみ、苦しみ、歎き、悩みがあるこの身を見つめ、真実なるものをつかみなさい。
「苦とは何か?」の問いを深め、まず、四諦を学びなさい」
最後に、お釈迦さまは、こう続けられました。
「私が説かなかったことは、説かれなかったままに受持しなさい。
また、私が説いたことは、説かれたままに受持しなさい」
この教えを聞いたマールンクヤプッタ尊者は、お釈迦様の教えを歓喜し、心から信受しました。
「箭喩経」『マッジマ・ニカーヤ』第63経
五月病も五月晴れも、同じ五月。
同じ5月なのに、なんだか、気持ちが晴れないのは・・・
毒矢が刺さってはいませんか?
いや、毒矢を大切に持ち歩いてはいませんか?


MEMO
1、十無記、十四無記、十六無記
世有常      この世は永遠か
世無有常     この世は永遠でないか
世有底      この世は有限か
世無底      この世は無限か
命即是身     霊魂と身体は同じか
命異身異     霊魂と身体は別物か
如来終      如来は死後存在しないか
如来不終     如来は死後存在するか
如来終不終    如来は死後存在し、かつ存在しないのか
如来亦非終非不終 如来は死後存在せず、かつしないでもないか
2、存在は、自から生じず、他から生じず、またその両方からも生じ   ず、またそれら全てによらずしては生じない

龍樹『中論』
3、断見<断滅の見>  死んでしまったら、あとには何も残らない
常見<常住の見>  肉体は滅しても、霊魂は不滅である
4、学問というとも、生死を離るばかりの学問は得すまじ
聖教を見るとも、生死を離るばかりの聖教を見るべしとも覚えず
聖光『浄土宗要集』


12 個のコメントがあります
  • 大閑道人
    Posted at 07:45h, 17 5月 返信

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    釈尊の態度=無記に関して、私は独自の見解を持っています。もっとも、最近になってのことですが。
    世のテレビ番組での、見えない世界の扱い方の乱暴なことよ!
    説くことへの責任を負う覚悟がなければ、無記のままがよろしいのです、凡夫には。

  • ひろみつ
    Posted at 09:46h, 17 5月 返信

    SECRET: 0
    PASS: f3c483acb35df62be31a398cd96892f6
    この話は僕も最近知りました。
    「あなたの気持ちに関係なく目の前の必要に迫られたことに懸命に取り組みなさい」と言われてるのかな?感じました。
    「五月病も五月晴れも同じ五月」という箇所がすごく印象に残ったし、いいお話をうかがったなと思います。有難うございます。他にもいろんな受け取り方ができそうですね。

  • きよみ
    Posted at 14:48h, 17 5月 返信

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    物事は必ずしも、あれこれ考えれば考えるほど答えが出るものではない、ということでしょうか。 考えたり悩んだりすることを止めた時にふっと答えが見つかったりすることってありますね。 それとも、深く考えずありのままを見つめなさい、ということでしょうか。 う~~ん。。 あ、気がついたらまた考えこんでますね。

  • Posted at 17:32h, 17 5月 返信

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    無記にしろ、因果にしろ、法に親しいもの同士で語る内容は、誤解を生じ易いものです。

  • Posted at 17:34h, 17 5月 返信

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    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    上から、お釈迦さまとマールンクヤプッタ尊者のやりとりを読むのではなく、マールンクヤプッタ尊者になったおつもりで、お読みいただければ、ありがたいです。

  • Posted at 17:35h, 17 5月 返信

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    来月、帰国した時にでも話しましょう。
    予定は、もう少し待ってください。

  • 大閑道人
    Posted at 18:18h, 17 5月 返信

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    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    いや、なるほど!
    ごもっともで。
    直接に語り合う以外に、誤解を少なくする場面はないですね、確かに。

  • 白蓮華
    Posted at 23:58h, 17 5月 返信

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    「私が説かなかったことは、説かれなかったままに受持しなさい。
    また、私が説いたことは、説かれたままに受持しなさい」 
    昨夜と今日・・・
    仕事でそんなことがあったように
    感じます。
    「このままなのか 即決するのか」
    昨夜の凹みようといい
    今日の晴れ晴れした気持といい…
    同じ問題で 同じ事が起こっているのに
    こうも違う 自分の心…
    人から言われた「言葉」ではなく
    自分の「気づき」が
    今日と明日を左右するのだと
    実感した日でした。

  • ウルダス
    Posted at 09:45h, 18 5月 返信

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    釈迦は最初の一歩が最後の一歩であって、つまり正しく問うことが大切なことを言っているのかなと思います。
    正しく問えば正しい答えが得られるとほとんどの人たちは考えるのですが、そういう具合に答えと問いをバラバラに考えていること自体が間違いであって、もちろん釈迦はそんなことを言いたいのではないと思います。
    本当に正しく問うことができれば、その問うている人は答えそのものになっていると思うのです。問いと答えは一つだと思うのです。
    だからこそ正しく問うことが大切で、正しく問うことにすべてがかかっていると思います。

  • Posted at 19:59h, 18 5月 返信

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    だからこそ、解りやすく説く努力も求めらているのでしょう。

  • Posted at 20:01h, 18 5月 返信

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    いつも丁寧に読んでいただいて、ありがとう。ここでは、受持という言葉が、キーワードのひとつです。
    ・・・大丈夫ですよ。

  • Posted at 20:13h, 18 5月 返信

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    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    正しく問う意識を高めなければ、なりませんね。
    この喩えは、無記の話として引用される事が多いです。しかし、ここでの問いの答えは、「苦とは何か?」の問いを深め、まず、四諦を学びなさい、です。
    これは、まだまだの問者との問答である事を、忘れてはならないとも思うのです。

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