3月 30日 豈歩亦歩走亦走
10年も前にもなりますが、ある会社の入社式でお話したものです。
当時は、まだ、20代。
今、読み返すと、よくお叱りを受けなかったと思います。
若気の至り、世間知らず・・・慙愧にたえません。
しかし、その一方で、あまり成長していないのも、また、事実。
自戒の意味も込めて、掲載します。
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それでは、皆さん、合掌をお願いいたします。
今、私が、お辞儀をして頭を下げましたら、皆さんも、全く同じようにされましたね。私は、合掌をお願いいたしますと、申し上げましたが、礼をしてくださいとは、言いませんでしたよ。
なぜでしょう?
礼をしてくださいと言われなくても、礼をする。お互いが拝みあう、その心。
これを、唯佛与佛<ゆいぶつよぶつ>と言います。
ただ、佛と佛、私も佛であり、皆さんお一人お一人、全て、佛様であるという世界の事です。
ご自分が佛様だと言われて、勝手に殺すなと、思う方もいらっしゃるかもしれませんが、禅宗では、亡くなられた方も生きております方も、斉しく佛様と見ます。
私自身は、生きている方の佛様を大切にする事が、佛の教えだと思っております。
生きている佛様が、ご飯を食べ、ねんねして、泣いたり笑ったり、好きだ嫌いだと騒いで、損した得したと日送りをする。なかには、短気な佛様もいれば、うじうじした煮え切らない佛様もいらっしゃる。ぼんやりした佛様もいれば、如才ない佛様や要領のいい佛様もいらっしゃいますね。
佛様のことを、別名、如来とも言います。釈迦如来、阿弥陀如来、大日如来、と。如来は、女の口から来た、と書きますね。何をして、どこの口から来たかは、皆さんの方が、僧侶の私よりもご修業されていることと思いますが・・・
とんちで有名な一休さん、臨済宗のど偉いお坊さんですが、こんなふうに詠われております。
女をば 法<のり>の御くらと 言うぞげに
釈迦も達磨も ひょいひょいと生む
お釈迦さまも達磨さまも、そして、皆さんも同じ口から出てきた佛様であります。その事実が、お釈迦さまや達磨さまと同じ世界を生きる事が出来る何よりの証拠であると思うのです。
だからこそ、皆さん、お一人お一人を大切にしなければならない。
だからこそ、自分で自分を傷つけるような事はしてはならないし、其処がわかれば、同じ佛様を傷つけるような事は、自ずと出来なくなってくるでしょう。
さて、本日、皆さんは、この会社に入社されました。
自ら望んでこの会社を選択した方もいれば、仕方なく入社した方もいらっしゃることでしょう。いずれにしろ、ひとまず、おめでとうございます、と申し上げます。
ひとまず、と言いましたのは、これから先、皆さんはご自身の責任で生きていくことになるからです。今までは、親御さんの下で育てられてきたのですが、今日からは、自分で稼ぎ生きていく事が求められますね。厳しいですよ。なかなか、世間は辛いものであります。
しかし、これは、独立の時でもあります。何よりのチャンスでもあるのです。
お釈迦さまは、人生は苦なり、とお示しなられました。
生きるという事は苦しいことだよ、と。この苦の正体は何かと言うと、それは、思いどおりにならない、という事であります。
例えば、どんなに好きで好きで一緒になったとしても、花の色は変化していきますし、何かのはずみで、片一方が死んでしまう事だってあります。死んでくれりゃ、まだ楽なものの・・・ある日突然、知らない男を目の前に連れてこられた日には、・・・私も、泣かされました。
どうでしょうか、皆さんは?思い当たることはありませんか?
何の因果か、イヤな奴の顔を毎日見なけりゃならない事もありますし、そいつが、自分の上司だとしたら、これはもう地獄ですね。常識も思いやりもない人から、毎日責めたてられるのは、耐え難いものであります。
明日から、皆さんは新人研修を受けて、各部署に配属されるそうですね。これも、また、思いどおりにいく人は少ないのではないでしょうか。地元の企業という理由で、この会社を選んだとしても、明日から中国に行けなんていう辞令を受ける事になるかもしれません。
私が前にいたお寺もそうでした。30くらい部署があったのですが、配属は本人の希望とは関係なく、人事の方が、勝手に、いや、よく考えられてお決めになります。私なども、そこに、何年かいたのですが、結局、行きたいところにはいけませんでした。
まぁ、現実には、力のしがらみや贔屓があるようでしたね。
人生は苦なり、という言葉を俟たずとも、現実の暮らしにおいては、思いどおりにならない事はよくあることです。日々の日送り、家族の事、友人関係、恋人、そして、会社もまた然りであります。
自分の思いどおりにはならない事がある、いや、むしろ、思いどおりにならない事だらけだ、と、今日の出発点に覚悟しておいてもいいでしょう。
先ほど、皆さんは佛様だと、申し上げました。
では、佛様は、この思いどおりにならない世の中を、どのように、受け止められているのでしょうか?
お釈迦さま、この方は、釈迦族の王子として生を享けられました。
季節ごとのお城を持ち、美しい女性に囲まれ、一見すれば、不自由のない暮らしをされておられましたが、29歳で出家されました。3人の妻と、一人の息子がいたのですが、それを棄てて、真実を求められました。水の中で息を止める行や断食、眠らない行など、まさに、その身が骨と皮になるまで苦行を続けられました。しかし、そんな苦行は真実の道ではないと気付き、坐禅によってお悟りをひらかれました。35歳の時だと伝えられております。お悟りをひらかれたお釈迦さまは、その教えを広める事に、一人でも多くの人を救う事に、その一生を託されました。
お悟りをひらかれたお釈迦さまは幸せで、恵まれた楽しい日々を送ったように思われる人が意外と多いのですが、実は、世間的な価値観で見ると、そのご生涯は苦難の連続でした。布教の旅の途中、何度も殺害されそうになりました。また、その出身の釈迦族を滅ぼされるという憂き目にも遭われております。決して、その一生は平坦なものではなかったのです。
お悟りをひらかれる前も苦の連続であり、お悟りをひらかれてからも、押し寄せてくるものは、実は、苦であったのです。
この事こそを、拝まなければならないと、私は思います。
お悟りをひらかれてからのお釈迦さまは、押し寄せてくる苦を、安らかに受け止められておられます。安忍<あんにん>、安らかに忍ぶ。
私たちは、何かイヤな事がおきたり、思いどおりにいかなかったりすると、そこで、人のせいにしたり、怒ったりしてしまいます。
いわば、苦の対象にひきずられてしまうのですね。
対象にひきずられない事、それが、安忍であり、本当の自由な人であります。自由な人になる方法、つまり、苦からの解放は、心の持ち方にあると言ってもいいでしょう。ひとつひとつの出来事を己の修行と受け止め、安らかに安らかに受け止めていく世界。
たとえ、希望しない部署に配属されても、そこを、自らの大切な場としていく事。いかなる時と場合においても、自らが自由であるならば、そこが真実の場所となる。随処作主 立処皆真<随処に主となれば、立処、皆、真なり>という言の葉。ひとつ、覚えておいてください。
自由な人とは、苦にひきずられない人です。
はじめに紹介した一休さんに、こんな逸話がございます。
一休さんが亡くなる時に、遺書を書いて弟子に託しました。
「この遺書は、この先、お寺が経済的に行き詰まって、どうしようもなくなった時に読みなさい。とっておきの方法が書いてあるから。それまでは、決して、読んではならぬ」、と。
幾年か経て、やはり、お寺が経済的にも立ち行かなくなったそうです。
そこで、お弟子さんたち、一休さんの遺言どおり、遺書を・・・。
そこには、たった一言、このように書かれてました。
「心配するな。なんとかなる」
おわかりでしょうか?皆さん、一休さんのお心が。
これから、社会人となるにあたって、世間の基準や価値観だけでなく、この自由な心がある事を忘れないで頂きたいのです。そして、その心は、決して、遠くにあるのではなく、ここにあるという事。その心になる方法は、決して、小難しいものではなく、あなた自身の生き方ひとつである、という事を。
こちらに、今日のお話のタイトルが書いてあります。
【豈歩亦歩走亦走】、読める方いらっしゃいますか?
これは、あに歩かばまた歩み、走らばまた走らんや、と読みます。
『槐安国語』という、禅の書物にある言の葉です。どういう意味かと申しますと、多くの人が歩くからという理由で自分も歩き、多くの人が走るからという理由で自分も走るようなことで、何の真実が掴めるか、という厳しい言葉であります。
世間の目、会社の目を気にして、一番大切な自分自身を置き忘れていては、せっかく、この世に生まれたのに、実に、もったいないですよね。
この世に生まれた甲斐、この世に生まれたこその真実を大切にしなければ、佛のこの身が泣いてしまいます。
現在、この国の経済状況は、たいへん厳しいものです。長い不況が続いております。こんな事を言うと、後で叱られるかもしれませんが、皆さんが入社するこの会社とて、必ず潰れないという保証は、どこにもありません。もっとはっきり申し上げれば、いつ潰れてもおかしくはない。
だからこそ、皆さんは、会社のみに依存するのではなく、独立した歩みを始めなければならないと思うのです。その歩みが出来る人の多い会社こそが、これからの時代に生き残れるのではないでしょうか。
その独立した歩みというのは、己勝手な、わがままな、その場限りの退廃的なものでは、決して、ありません。皆さん自身が佛様であり、そして、皆さんの周りの人全ても佛様であるという認識を基調とした歩みであります。傷つけたり、傷つけられたりしない世界であります。
そして、この先、世の中の嘘に騙されることなく、たとえ、社会の仕組みに取り込まれたとしても、潰されたりすることなく、真実の歩みをしていただきたい、と願っております。
本日の入社式は、皆さんの人生の出発でもあります。
どうぞ、苦にひきずられない、何ものにも縛られない、自由な歩み、佛様になっていく歩みを期待いたします。
ご清聴、ありがとうございます。
10年も経つと、世間の様相、価値観も変わりました。
私の環境も、ずいぶん、変わりました。
こんなはずじゃ、なかった・・・唇をかみしめております。
remains
Posted at 14:35h, 30 3月SECRET: 0
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随分ご立派なご講義なさいましたね。たいしたものです。
そして初心は忘れたくないもの。
日々の生活に流されず、他人の幻想に迷わされず、生きていきたいものです。
いつもありがとうございます。
法慧
Posted at 22:39h, 30 3月SECRET: 0
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27歳の時に、頼まれて話しました。
以来、10年。青臭い所ばかり残って、全く、困ったものです。
年々歳々花相似たり 歳々年々人同じからず・・・耳が痛い
hrdaya
Posted at 00:13h, 31 3月SECRET: 0
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はじめまして。
かつて布教師になって全国行脚をしたいがために幾年も本山に参籠し、参拝の皆様にお話しをさせていただきました。しかし、やっと布教師になってみるとその責任の重大さに怖じ気づいてる自分があります。 法慧さんの瑞々しい感性によって綴られた言葉は、きっと多くの方々に感動を与えられたでしょうね。また、寄らせていただきます。
桃麗
Posted at 09:06h, 31 3月SECRET: 1
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法慧さん、おはようございます。
メールありがとうございます。
法慧さんに何か素敵なお土産と思ったのですが、、、、結果ゴミのような粗品にも至らないもので、申し訳無いキモチですw~。
あ!ただし、タコヤキのストラップは
金運上昇らしいので。。。。
と言っても、法慧さんが、金運とな?
というミスマッチ感も無きにしもあらず・・・∑(; ̄□ ̄A アセアセ
ホントにすんませんです。。。
次回は、F島の名産なんぞをお送りしたいです。。(あるのかにゃ?)
ではでは♪
sabaku92
Posted at 16:17h, 31 3月SECRET: 0
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履歴からお邪魔します。
初めて読ませていただきましたが、
難しい言葉が多くて・・速読がやりにくかったです(笑)
でも、書かれてある通りですよね。
「何事も、心の持ちよう」
私もそのように思います。
又お邪魔させていただきます。
法慧
Posted at 17:42h, 31 3月SECRET: 0
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はじめまして。
まず、伝える事が大切であり、伝わるか否かは結果であり、伝わらなくとも、ご縁はついた、と信じております・・・不遜ですが。
布教師の方ですか。すごいですね。
私は布教や法話を専門に学んでいないので、曹洞宗の僧侶なのに、他宗の喩や俗っぽいのが多くて半端者です、おはずかしい。
今後とも、よろしくお願いいたします。
法慧
Posted at 17:47h, 31 3月SECRET: 0
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はじめまして。
難しい言葉が多かったですか・・・すみません。
「何事も、心の持ちよう」・・・一言で片付けたら、そうなるのかもしれませんね。ただ、願わくば、正しい在り様を。
のんびりやっております。
ur
Posted at 23:10h, 31 3月SECRET: 0
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「安忍」こんな言葉があったんですね。
とても心に残りました。
最近、少しずつですが、自分有るがままの姿でやっていこうと歩き出しました。
いずれ、ブログに書こうと思います。
「安忍」という言葉忘れないようにしたいです。
法慧
Posted at 23:58h, 31 3月SECRET: 0
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真面目で 人に親切
凛として ゆったりとして よく笑う
一歩 一歩 もう一歩
kk9292
Posted at 15:59h, 02 4月SECRET: 0
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お邪魔します。
お言葉有難うございます。
私は20代から、ビジネスの世界で「ぶら下がりながら」隅っこのほうで生きてきたのですが、、私だけの感覚かもしれませんが、、
現代(特に経済が支配する)社会で
生きていると、、何事にも現実主義。
になりがちで、、実際にそのような方々に囲まれてたと思います。
そのときに、私のひぃ爺さんが生前
小学生の私に「仏壇に線香を上げなくても良いから、寝る前に『ご先祖様有難う』と言って寝なさい」、、そうそれこそ「耳にたこ」
(ごめんなさい)状態になるほどに言われました、、それがいつの間にか癖になってしまって、、50歳を目の目前にした今でも、
「毎日の日課」となっております。
おかげさまで。
人生(語るのは早いですが)節目節目で、
「どうして?」「なぜ?」そう感じることが
沢山あり助けられてます。
ご先祖様に感謝です。
小萩
Posted at 00:11h, 03 4月SECRET: 0
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こんばんは、ご無沙汰しております。
昨年末~2月ごろにかけて(ささいなことがきっかけで)軽い抑鬱状態になっており、サイトめぐりも何もほとんどしない状態が続いておりました。
一度病院の門を叩こうかと思うほどでしたが、とある新書を読んだことと以前法慧さまに『考えてばかりいないで動くことも大切』と言われたことを思い出して、正直イヤイヤでしたが頑張って動いてみました。
疲れたせいかよく眠れるようになって、眠るようになったら頭もクリアになったみたいで。お蔭様で『視野狭窄』状態を少しづつではありますが抜けてきているようです。
アドバイス、ありがとうございました。
それと、法話拝読させていただきました。
恥ずかしいなんてとんでもない、とてもいいお話だと思います。
ひろぴ~
Posted at 02:38h, 04 4月SECRET: 0
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履歴を追って訪問しました。
素晴らしい話、有難く読ませて頂きました。
一休の遺書の「何とかなる、心配するな」
苦しい時代に私が思った事と同じで驚きました。
こういう有難い教えを参考に暮らしたいですね。
法慧
Posted at 17:27h, 04 4月SECRET: 0
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すべてよし
おかげさま
ようこそ、ようこそ
・・・私のお師匠様の口癖でした。
法慧
Posted at 17:30h, 04 4月SECRET: 0
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立処、皆、真なり。
・・・大丈夫、大丈夫。
法慧
Posted at 17:34h, 04 4月SECRET: 0
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心配するな、けど、慢心するな。
のんびり更新しております。また、どうぞ。
緑の大地
Posted at 20:40h, 04 4月SECRET: 0
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「すべてよし」「ようこそ、ようこそ」
この二つも私のライフワークの中の言葉に
仲間入りしました。
このページに出逢い、
感じるところ有り、、ネームの変更を思いたち、、、
変更してみました、、
kk9292から緑の大地に・・
頑張ります!!