5月 31日 30年
昨年の冬、このブログを通じてあるご夫婦と知り合いました。
30年前、大切な大切なお嬢様を交通事故で亡されたそうです。
その日、赤信号で停車中の奥様の運転する車に、居眠り運転のトラックが突っ込んできた。
奥様は、奇跡的に一命を取り留めた。
しかし、その愛おしいあの子は・・・わずか2歳1ヶ月であった、と。
「娘の死をベッドで伝えらた時、荼毘に付したと聞いた時、動かぬこの体が恨めしかった・・・そして、あの事故が恨めしく、あの運転手が恨めしく・・・何よりも、あの時あの場所にいた自分が恨めしいの・・・」と、しぼりだす様な声で奥様がおっしゃいます。
「そういえば、今年で30年が経つのだなぁ、と思いましてね。
思えば長いような、短いような、なんだか、昨日の事のような・・・
すでに、私たち夫婦も還暦を超えました。
そろそろ、人生の整理をしなければ、と、強く感じたのです。
それで、あなたにお話を聞いてもらえればと、メールをしました」と、ご主人が静かに語りました。
「私で良ければ・・・お付き合いしましょう」
ひとつきに一度程度、お宅に伺い、時には食事をしながら、ご夫妻と共に過ごしました。
「今まで何度も、死のう、娘のそばに行こうと、いう衝動にかられました。
急に寂しくなるんですよ、急にね。
何をしても、どこにいても、娘の事ばかりを考えてました。
それでも、私には仕事があったから、幾分か救われもしましたね。
でも、妻は、退院後、家にこもって、出歩かなくなりました。
そして・・・二度、妻は自殺を試みました」
「もう、一日中、泣いてました。
泣いて泣いて、泣いてばかりで・・・一日中、あの娘のお骨を抱いて泣いてました。
家の事や主人の事など、全く構わなかった。
でも、この人が許してくれて・・・優しいから・・・
お友達や親類、そして、主人の会社の方から、慰めの言葉や励ましの言葉を、沢山いただいたのですが・・・素直に、受け止められえなくて。
なぜ、娘が死ななければならないのか、と思ってしまって」
「あの運転手は、実刑になりました。でも、それは、他人事でした。
刑期を終えてから彼は、数年間、命日に花を送ってきましたけど、今は、もう音沙汰はありません」
「どこかで、我が家の不幸が売られたのでは、と思うくらい、多くの宗教が勧誘してきましたよ。
あの事故は、先祖供養を怠った罰だとか・・・
10代前の先祖が苦しんでいるから、娘を呼び寄せたのだとか・・・
この苦しみは、神様が与えてくれた私たち夫婦への試練だから、心から喜びなさいだとか・・・
娘を供養をしなければ、苦しんで浮かばれず、今後もっとひどい事が起きるだとか・・・
お恥ずかしい話ですが、当時は、なるほどなって思ったんですよ。
娘が亡くなったり、妻も不安定になったり、私たち夫婦ばかりが辛い目にあっていると思うと、言われるがままに、本を読んだり、集会やセミナーにも参加したりしました。
笑われるかもしれませんが、多くのお布施や寄付もしたし、お守りや数珠、テープやビデオ、いいといわれた物をいっぱい買いましたよ」
「でも、何をしても、心を満たす事は、できませんでした」
かけがえのない愛娘
たどたどしい言葉を発し、よちよち歩き、けたけた笑い、ギャーギャーと泣き、こぼしながら食べ、天使のように眠るその姿。
パパ・ママと叫ぶあの子の声が耳を離れない
パパ・ママと叫ぶあの子の顔が浮かんでくる
死んだあの子があいくるしい。
あの娘がくるおしいほど愛おしいのだ
たとえ、おのが命を捨ててでも、守りたかった。
だから、何をもってしても、心が満たされる事はない。
奥様は、声をあげ泣いていました。
ご主人は咽び、肩を震わせていました。
先日、ふたたびお二人にお会いしました。
奥様が開口一番。
「娘のお骨を、お墓に納めたいと思います
主人の兄が、私たちの分の墓地まで、霊園を求めていてくれて・・・
今後、私たちが入った後は、甥が面倒をみてくれる事になってます。
そこに、お墓を建てて、娘を納めてあげたいと思うのです。
やっと、そんな気になれました・・・」
いつものように、お嬢さんのお骨の前で、3人で読経をしました。
「私たち夫婦は、30年かかりました。
なんだか無駄な時を過ごしたのかもしれませんが・・・
娘の骨を納めると決めたら、ようやく、気持ちが落ち着きました」
と、ご主人様から、お言葉をいただきました。
現今は、カウンセリングや心療内科、グリーフワークと心の安寧や癒しを提供する方法論は、いくつもあるけれど・・・
30年、亡くした娘と共に成長してきたご夫婦もある。
30年、それは、無駄な時ではなく、必要な時であった。
とても深く、豊かな時を、お過ごしになられましたね・・・もう、大丈夫ですよ。
MEMO
1、小林一茶
2、西田幾多郎
3、西条八十
4、白金も 黄金も 玉もなにせむに
勝れる宝 子にしかめやも 山上憶良
白蓮華
Posted at 09:18h, 31 5月SECRET: 0
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子供に先立たれる 親の心中は
行き場のない やりきれない
想いなのでしょうね。
「宿題やったの?」「早く寝なさいっ!」と
日頃 口うるさく言っていても
隣で 寝顔を見てると
毎日 元気でいてくれることが
何よりも幸せなのだと思っています。
先日 夜遅くに和歌山に 一人帰省した折
「あの駅は 暗いから こっちの駅で待っているように」と父から言われました。
いくつになっても 親から見れば
まだまだ子供なんだと 改めて
親の愛情を感じました。
ひろみつ
Posted at 09:30h, 31 5月SECRET: 0
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何て重い30年だろうと思いながら拝見しました。
神様が与えた試練だから喜べとか、いろいろ言われたところで、そんなものは理屈であって、このご夫婦には「娘が死んだ」ということだけが事実なんですよね。
その理不尽な悲しみから、解き放たれるのに30年という歳月が必要だった・・・・
でも結果としては、その30年がご夫婦に寄り添い、味方してくれたということなのかな・・・・・
すいません、いろんなことを感じすぎてうまく書けません。でも、「心の平安を取り戻すきっかけが掴めてよかったですね」と言ってあげたいなと思いました。
葬儀夫
Posted at 10:12h, 31 5月SECRET: 0
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下のブログの投げかけにお答えいただいたような内容でした。
このご夫婦は結果30年大きい意味での第2の矢を受けていて、やっと今その矢が抜けたと解釈いたします。この30年もの間に第2第3・・・の矢を何度もお受けになっている。塞ぎ込んで、自殺を試み。30年経って今、過去の事ととして考える事ができるから結果として第2の矢がとれたのではないでしょうか。
失礼ですが法慧さまはお子さんがいらっしゃいますか?目の前から存在がいなくなったらのことを考えられますか。お釈迦様はその現象を悲しいとだけですむのでしょうか。母マーヤが亡くなって第1の矢がささった。思い苦しむ。そして、王子という座位を捨て出家する。これは傍から見て第2の矢の行動と捉えられます。この時まだ悟りを開く前ですから当然のことです。悟りを開くまでずっと第2の矢がささったままです。悟りが開けたからこそ過去を振り返ることができたのではないかと自分は思います。第2・3・4・・・と矢を受けた結果その個人の人生がよい方向に向くという事もあると思うのですよね。いえ、第2・3・4・・・を考えたからこそ学習ができ反省ができよい結果を生むことだってあります。そうしないと現社会では取り残されて行く方が多いと思います。そう思うのはまだまだ冬を過ごしているせいなのか、仏を知らない凡人なんですねぇ。
五月
Posted at 21:38h, 31 5月SECRET: 0
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小さな子供が事故・事件で亡くなった話を見聞きするたびに、わが子を失う親は、どんなに辛いんだろうって考えるんですけど、悲しいかな、同じようには感じることは出来ないんですよねぇ・・・。ニュースにならない所でも、そんな辛い思いをしてる人がいるんですよねぇ・・・。
少しだけ、そういう気持ちに触れられた気がしました。ありがとうございます。
ご夫婦が穏やかな気持ちになれて本当によかた!生きててよかったなぁって。30年の重みの前では、なんて軽い感想!って我ながら思いますが・・・(涙)。そう思いました。
ところで、法慧さんのやさしくて穏やかな文章、ぐっと来て大好きです。続けて下さいね♪
慧
Posted at 22:12h, 31 5月SECRET: 0
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親子の情愛や痛みを感性を育てる事を、現代では忘れがちなのかもしれませんね。
慧
Posted at 22:14h, 31 5月SECRET: 0
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ありがとう。
あなたのコメント、あなたのお気持ちは、きっと、当家の方々に届くと思いますよ。
慧
Posted at 22:15h, 31 5月SECRET: 0
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いずれにせよ、良かったですね。
慧
Posted at 22:27h, 31 5月SECRET: 0
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温かい気持ちをありがとう。
不特定多数の対象に語りかけるのは、難しいなと感じながらの、一歩一歩です。
陽菜
Posted at 00:26h, 01 6月SECRET: 1
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可愛い盛りのお嬢様を亡くされたお二人のお気持ちを考えると、胸が痛みます。
私も先日、自分の亡くした娘のことをブログに書かせていただきましたが、
「いつまでも被害者ヅラして偽善者だ」と書いた方がいらっしゃいました。
人の痛みというのは、なかなか想像できないものなのかもしれません。
自分がその経験がないと。
思慮の足らない私ですが、人生、こういう痛みもあるのだと教えてくれた娘には感謝しています。
どうかお嬢様のために立てるお墓が、お二人にとって心休まる場所となりますように。
これから少しでも優しい時間がお二人の上に流れますように。
お祈りしております。
zazen256
Posted at 10:57h, 02 6月SECRET: 0
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30年間も苦しむ出来事を味わったご両親の教えは周りの人々にも、深く広く伝わり続けていると思います。
ご両親は、これからも長生きして欲しいと思います。娘さんの分まで長生きして欲しいと思います。
娘さんの魂は、ご両親とともに生き続けておられる、と私は思います。
このような教えに接する私たちは、この教えを真剣に受け止めなければならないと思います。私たちは、車などを運転するときには、常に、十分に、気をつけながら、安全運転を心がけなければなりません。
感謝します。 合掌
慧
Posted at 23:12h, 02 6月SECRET: 0
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貴方のように、この悲しみを共有する視点を持つ事は、とても素晴らしいだと思います。
貴方の仏道への学びの深さを感じます。
晴
Posted at 12:44h, 04 6月SECRET: 0
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子供を亡くすのは辛すぎます。自分に過失が無かったとしても、親は自分を責め続けるのでしょう。
私は、この様な方々が許してくれるならば寄り添う存在でありたい。
現実は許してくれませんが...
この夫婦の様な方々に寄り添って共に生きることは、僧侶の重要な存在意義の一つだと私は思います。
大変ですが、今後も悩める方々の近くに寄り添いつづけて下さい。
慧
Posted at 19:30h, 04 6月SECRET: 0
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このブログが縁となり、お会いする事もあります。出会いを大切にしたいですね。
acqua
Posted at 03:12h, 14 6月SECRET: 0
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私には3歳年下の弟があったはずでしたが、7ヶ月で死産だったと聞かされていました。顔を見れば情が移ると、そのまま「処分」をお願いしたのだそうです。
でも、今年、父の胃がん告知がきっかけとなり、せめて名前をつけてあげればよかったと悔やまれて、そして友人の住職に戒名を授けていただき、開眼供養をしていただきました。
43年目、母はご供養をしていただいたお位牌を手にしたとき、「生まれたての赤ちゃんを抱いたみたいだった」そうです。
それぞれに過ごした時間、これからの穏やかな時間につながりますように。
おんかかかびさんまえいそわか
慧
Posted at 07:16h, 16 6月SECRET: 0
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私は、地蔵菩薩を信仰しております。
お地蔵様が機縁となり、出家いたしました。