大童法慧 | 徳をつらぬく
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10月 17日 徳をつらぬく

かくばかり みにくき国に なりたれば 

      ささげし人の ただに惜しまる

 

先の戦争の未亡人が詠まれた歌だそうです。

 

 

今年八月、ご縁あって知覧に行きました。長年、伺いたいと心に留めていた町です。というのも、私が生まれ育った町、山口県徳山市は回天、いわゆるの人間魚雷の基地がありました。また、私の頭を剃っていただいた師匠も、東洋大学の学生でしたが、特攻を志願されました。その後、終戦を迎え、「自分だけ生き残ってしまった」という想いから仏門に入られたと聞きました。

 

知覧にある特攻記念館。

そこには、数多くの展示物がありました。まだまだ二十歳そこそこの若者が、親兄弟を想い、恋人や許嫁を想い、そして、国を想い書いた手紙。郡山からも、お二人の方が知覧から旅立たれていました。

 

沢山の写真もありました。

そのなかで特に印象に残ったのは、18、19の若者三人と子犬の写真です。そこには、三人の屈託のない笑顔がありました。でも実は、その写真を撮影した翌日付で、彼らに特攻の命令が下されていたというのです。果たして、明日、自分の命が亡くなる。あと数時間後に、自分の命を賭すという定めの中で、あのような笑顔を保つことができるだろうか。

 

知覧には、特攻の母と称された女性、鳥濱トメさんという方がいらっしゃいました。当時、冨谷食堂を経営していて、多くの隊員さんたちが食事や息抜きにその食堂を利用していたそいうです。まだ若い隊員がトメさんのことを、母のように慕っていたそうです。

 

出撃した隊員の一人は、「おばちゃん、俺は明日行くけれど、おばちゃんは長いきしてね。俺の寿命、30年分をおばちゃんにあげるから」と言い残して飛び立ったそうです。

 

その冨谷食堂さんはホタル館という記念館になっています。そこにはトメさんと隊員たちの想い出の品が多くありました。そして、トメさんが直筆のメモが数点ありました。

 

「よきことのみ念ぜよ 必ずよき事来る

生命よりも大切なものがある

それは徳をつらぬくことである」

この書きつけたメモ書き見た時、目頭が熱くなりました。多くの若者を見送ったトメさんだからこそ気づかれた真実の言葉なのでしょう。

 

 

私たちの暮らしは、いいこと悪いこととつい分けてしまいがちです。しかし、あの時代にあっても、トメさんは、よいことだけを念じなさい、と仰います。そうすれば、よいことがくるよ、と。いや、実は、どんなことが起こっても、それが一番自分にとってよいことなんだよ、と。

 

そして、生命よりも、この命よりも大切なものがある、と仰います。それは、徳をつらぬくこと、だと。この徳は、損得や所得の得ではありません。人徳や道徳の徳です。美徳との徳です。徳の原型となった漢字は、悳です。直と心がひとつになっております。真っ直ぐな心。真心。それを貫く。

 

では、私たちの真心とは何でしょうか。いろんな答えがあるのでしょうが、おそらく、そのひとつは、我をつらぬくのではなく、誰かのために、皆のために、という世界があり、それに尽くすことだと思うのです。かつての若者が親兄弟のために、国のために、愛する者のためにと尽くされた。そこには、「私」はなかった。

 

 

私はないと言われても、と思ってしまうかもしれません。また、誰かのため、皆のためと言われても、戸惑ってしまうかもしれません。

 

しかし、想うのです。例えば、故人様のために手を合わす時、我が子のために祈る時、そこに私のためにという想いはあるでしょうか。難しく考えなくても、私たちには、私を空しくして人を想う心があるのです。それが、德です。その自らに有る徳をつらぬいていく。真心を育てていく。そこに、生命よりも大切なものが現れてくるのでしょう。

 

 

現在、ほたる館の隣には、冨谷旅館があります。幸いにも、一泊、私はその宿で過ごすことができました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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