4月 06日 満月の夜の坐禅会3月21日講話 抄
昨年の10月に坐禅会に参加された、70代の女性から手紙を頂戴いたしました。
ご本人の許可をいただいておりますので、ご紹介をさせていただきます。
拝啓 11月を迎え、山の紅葉が日増しに色づき、私たちの目を楽しませてくれます。
10月の坐禅会では大変お世話になりました。有難うございました。
どうしようもない身の苦しみを、お寺に身を置くことで心の安らぎを感じました。また、坐禅会が終わってから、2時間あまりも身の上話を聴いていただいたことで、故郷の地に降りた時は清々しい思いが致しておりました。おかげさまで、帰りの新幹線の中で、夫の葬儀も来年の五月にはと心に決めておりました。
少し、状況の説明をいたします。
この女性は・・・坐禅会の終わった後、私の所にこられまして、「話を聞いてもらえませんか?」と仰っいました。
思いつめたような、そして、どことなく物の言い方が、私の慈恩師様、私を出家に導いてくれた尼僧様ですが、その方とよく似ていたものだから、「いいですよ」と答えました。
伺えば、お友達の勧めがあって参加されたとのこと。
坐禅をしたのは初めてであったそうです。
というのも、ご主人が、実は2年半ほど前、山に登られて行方不明になられ、未だに、ご遺体も見つかっていないのもあって、何にも手につかない。
「もしかしたら、今日、帰ってくるかもしれない」という思いで目が覚め、「やっぱり、だめなんだ」という苦い思いで、夜を迎える日が続いて、とにかく家から出る事ができなかった。そこをお友達の「私が代わりに留守番をしていてあげる」という一言があって、参加を決意されたそうです。
この御夫妻は、若いころから、二人での山登りを趣味としてきたのだけれども、その日に限って、御主人は近くの山をご主人が一人で入って行かれたそうです。
日帰りの登山と思っていたけれども、夕方になっても、一向に帰ってこなかった。胸騒ぎがして、すぐに警察や山登りの仲間に連絡したけれども、懸命な捜索も実らなかった、というのです。
砂を噛むような2年半だったけれども、今回、「参加して本当に良かった」と仰ってくださいました。
手紙を続けます。
十月十九日、警察からの一報で、主人の遺体を確認することが出来ました。二年半ぶりの対面でした。奇跡的に、今生で今一度、巡り合うことができました。
二年半もの間、家に帰ることが出来なかったので、まず葬儀をすませて、納骨は四十九日頃と思っています。悲しみは尽きることはありませんが「おかえりなさい」の言葉と人様への感謝の想いを重く受けとめて供養して参ります。
この手紙を頂戴した日、すぐに私は電話いたしました。
「よかったですね」と申し上げると、「ありがとうございます」と、電話の向こうから、腰をかがめ手を合わせる様子が伝わってきました。
反対側の沢の奥深くに、ぽつりと坐る人影のようなものを見つけた登山者が警察に通報したところ、発見の運びになったそうです。
私は山登りをしないから、知らなかったのですが、山で遭難するとなかなか見つからないそうです。まして、2年半の年月が過ぎて、会うことができた。これは、本当に奇跡だと彼女は仰るのです。
手紙を続けます。
招かれる様にしてお寺へと伺い、涙が溢れる思いが致します。このありがたい御縁を頂戴し、頂いたお言葉を胸にしまって人生のまとめをしたいと考えております。
本当にありがとうございました。取り急ぎ、ご連絡まで。 敬具 11月2日
長年連れ添われた方が、突然、居なくなった事実をなかなか受け止めるのは、難しいものです。頭では、遭難したのではないかとは、十分に分かっていたけれども、そのご遺体を見ないうちは、認められないし、認めたくない。
このような状況にあって、彼女の周囲の方々は、落ち込む彼女を励ますため、また、気持ちを切り替えさせるために、御主人の葬儀をすることを進めたというのです。
私は、お話を聞いた際、アドバイスではありませんが、このような事を申し上げました。それは・・・遠くに行ってしまったと思うのではなく、いつもご主人様と一緒にいることを数えてみませんか?
たとえば、あなたの生活。朝起きてから、眠るまで、いや夢の仲間でも、御主人はいらっしゃるでしょう。
たとえば、あなたの目には、いつも御主人の笑顔があるでしょう。
たとえば、あなたの家には、御主人が使われた食器、御主人の衣服、お写真、それらに囲まれているでしょう。
「だから、いつも一緒にいる。一緒にいると信じ、感じることをどうぞ忘れないでください」とお伝えさせていただきました。
すると、彼女は涙を流しながら、こう私の手を握って頭を下げられた。そして、「これで夫の葬儀を出せます」と、仰った。
もちろん、坐禅をしたから、御主人が見つかったのではありません。
ただ思うのです。奥さまの気持ちの変化が、状況の変化を招いたとはいえるのかもしれない、と。
今日お越しの皆様の中にも、身近な方を亡くされ悲しみの中でのお参りの方もいるかもしれません。
でも、お伝えしたいのです。決して離れ離れではない。決して、遠くにいったのではない。彼の岸とこの岸は、一つにつながっております。
今日は、この絵本を紹介しましょう。
主人公は女の人です。この人が、亡くした御主人、ご両親、恋人、もしかしたら、お子さんかもしれない。その大切な人を思い念じる姿が描かれております。
どうぞ、目を閉じて聞いてください。我が身に引き寄せて、皆さま自身の大切な方を思いながらお聴きください。
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